文字サイズを変更
文字サイズ小
文字サイズ中
文字サイズ大
感心 しょうじきもの

正直者

キーワード
,
,

ある正直者がいました。なかまのわか者たちといっしょに今で言うパーティーをした時、みんなにだまされた...というお話です。でも、はたして正直者は本当に「だまされた」だけだったのでしょうか...?

聞いてみよう

再生ボタンをおして民話の語りを聞いてみよう。ダウンロードもできるよ。

市場 詳規(いちば あきのり)さん
かたりべ
市場 詳規さん
再生時間
6分16秒

読んでみよう

印刷用データ(PDF)

鳥取県 正直者

 さてさて、ずいぶんむかし。
 いなかにはこれといってごらくもありませんでした。とくにわかい者には何という遊びもなく山仕事や畑で働くだけでした。あとは、たいくつで時間をもてあましてくらしていました。
 それでも、そういったわか者たちが集まるわかしゅう宿があって、だれかれなくやって来て、何ということのない話をしていました。たまには、だれかが、
「おーい、今夜あたりいっぱいやらんかのう」
と言いだし、飲み会の話がまとまることがありました。
「よし、そんなら、今夜あたり、めおいをしょうかいや」
「うん、そりゃあいい」
ということになりました。めおいとは、今でいうわりかんのことです。
 そうしてお金を出しあい、どぶさをたっぷり買ってきました。どぶさとは、まだすっかりしぼり切っていないにごり酒のことです。それで、なべの底にはいっぱい酒かすがたまっていました。ちょっとずるい者は、どぶさをわかしながら、上ずみのうまぁいところをこっそり飲みました。また、すばしっこい者も、酒をわんにつぎながら、そ知らぬ顔です早く飲んだりしました。

 たまたまその夜は、これほど正直者はいないというほどの、気のいいわか者がまじっていました。
「ほら、そこの正直者よ、どぶさちゅうのは何といってもしるよりも実の方がうまいもんじゃ。これを食わぁ」
ちょっと意地悪のわか者が、正直者のわんに、なべの底の酒かすをいっぱい盛りました。
「そうか、うらには、汁よりもうまぁい実をくれるのけぇ」
正直者は、そういって、一人、酒のかすを食べました。
「うんめえかえ」
みんなに聞かれ、正直者は口の中で酒のかすがモサモサするのでちょっとこまりながら、答えました。
「うんめえわいやあ」
「あ、そうか、そんなら、もっと食わあ」
みんなは酒かすをすすめました。正直者ははらはいっぱいになりましたが、ほかの者ほどよいはしませんでした。しかし汁よりうまいという実、つまり酒かすをたくさん食べ、上きげんで家へ帰りました。

 正直者は母親に言いました。
「おっかあ、うらあ、今夜、いいことをしたわいや」
母親はほくほく顔の息子に問いました。
「まあ、おまえがいいことをしたって、そりゃあめずらしいこと、いったいどげないいことしたあいや」
「うん、酒のめおいをしてな、みんなはしるばっかすうておったが、うらは、しるよりうまい実ばっかり食べたわいや」
それを聞いた母親は、おどろきあきれて、腹を立ててしまいました。
「何ちゅうこったあいや、そげなことをするじゃあねえだがなあ、どぶさの実ちゅうもんはカスじゃ、カスはおいといて、しるのいいとこを飲まにゃあいけんがなあいや」
正直者の息子はおっとりと答えました。
「うーん、そうかいや。今度は、おっかあのいうとおりにするけえ」

 さて何日かたって、正直者はわかしゅう宿へ行きました。また、だれかが言いました。
「おい、今夜あたり、何かうまい物ん、食わあ」
そうすると別のだれかが言いました。
「今度は、とうふをにて食わあ」
そこでまた、わりかんで、とうふをたくさんか買って来て、とうふじるを作りました。正直者は、
「うん、おっかあがいうたように、今度は負けないようにしるをすうわいや」
と一人ごとを言いながら、とうふは食べずに何はいも何はいもしるばっかりすすりました。ほかのみんなは、とうふをいっぱい食べました。
 正直者ははらがタプタプするほどしるを吸い、いったい、うまかったのかどうかはわかりませんでしたが、みんなに
「うんめえかえ」
と聞かれ、
「うんめえわいや」
と答えました。そして正直者は、母親がしるの方がうまい、といっていたのを思い出し、またしるをすすりました。

 正直者は家へ戻り、
「おっかあ、うらあ、ほんとうにいいことをしたわいや」
とうれしそうにいいました。
「どげえな、いいことをしただいや?」
母親もうれしそうに聞きました。
「今夜、とうふじるをみんなで食うてなぁ、みんながカスばかり食うたが、うら、うまぁいしるをたぁーんとすうたわいや」
それを聞き、母親は、またおどろきあきれました。そして、弱々しくつぶやきました。
「ふーむ、とうふは実のところを食うもんだがなあ......」
母親は、また、ふーむ、とため息をつきました。正直者もため息をつき、言いました。
「ふーむ、酒の実も、とうふのしるも、まずくはなかったが......」


「響け佐治谷ばなし」(発行/鳥取市佐治町総合支所)より

さし絵
池田 マキコさん

ことば

ごらく

人の心を楽しませるもの あそび

上きげん

きげんがいいようす

うらあ

わたしは[方言]

どげな

どんな[方言]

何ちゅうこったあいや

なんということですか[方言]

わりかん

ぜんいんが同じ金がくになるようにお金をはらうこと

ポイント

酒のかすもとうふの汁も、現在では体にいい食品として使われます。食べものはよく調べてみると、ふだん食べずに捨てているような所でも、工夫して料理すれば食べられるものがたくさんあります。むだなく食べれば、ごみもへらせるし体もじょうぶになります。


このページの上へ移動