文字サイズを変更
文字サイズ小
文字サイズ中
文字サイズ大
感心 かやまのなべかまみがきのはなし

栢山の鍋釜みがきの話

キーワード
,
,
,
,

大変な思いをして集めたまきを、むだづかいしていた村の人たち。それを見た金次郎(きんじろう)さんは、ある行動を起こします。それは村の人たちのくらしまで楽にする、すばらしいことでした。

聞いてみよう

再生ボタンをおして民話の語りを聞いてみよう。ダウンロードもできるよ。

鈴木 万由香(すずき まゆこ)
かたりべ
鈴木 万由香さん
再生時間
5分58秒

読んでみよう

印刷用データ(PDF)

神奈川県 栢山の鍋釜みがきの話

 小田原市栢山(おだわらしかやま)といえば、「ほうとく」の教えで有名な二宮尊徳(にのみやそんとく)の生まれたところ。この話、二宮尊徳が金次郎(きんじろう)さんとよばれていた子どものころの話だ。

 そのころ、栢山のあたりは、酒匂川(さかわがわ)というあばれ川のたびたびのはんらんで田畑がこわされるなど、お百しょうさんたちの生活は、大変に苦しかったそうな。

 このあたりのお百しょうさんたちが、くらしの中でいちばん大事にしていたものは、まきだった。それは一日と、たやすことができないものだった。大水が出て田畑がだめになっても、お百しょうさんたちは、まずたき木集めをしたものだった。水の引けきらないかわらに出て、流れてきた木のかけらをひろい集めるのだ。
 ごはんやおかずのにたきに使うたき木は、一里も二里もはなれた箱根山(はこねやま)のふもとの方までとりに行かなくてはならなかった。
 朝は、日ののぼらぬ三時、四時に起きて家を出る。馬を引いてトボトボ歩いて行くのだ。馬のせにたき木を五ひょうも六ひょうも積んで帰ってくるのが三時ごろ。何しろ、一年分必要だから大変だ。それも野良(のら)仕事のあるときは行けない。
 このたき木を使って、おかみさんたちが、朝にばんにごはんのしたくをする。モクモクと白いけむりや黒いけむりが立ちこめ、かまどやなべ、かまの底をまっ黒にしてしまう。
  お百しょうさんの仕事は切りなしだから、なべ、かまにくっついたすすを取るひまがない。おかげで底には、すすがいっぱいこびりついたりしている。こうなると取るのが大変で、ついめんどうくさくなって、すすはふえる一方。
 
 あるとき、金次郎さん、用足しに近所の家に行ったんだと。ちょうど、おかみさんがごはんをたいているところだった。
「モクモク モクモク ゴホン ゴホン」
 あまりに黒いけむりがモクモク出ているので、金次郎さん、かまどをのぞきこんだんだって。おどろいたことに、かまの底には、すすがたれ下がるほどくっついているではないか。そこで
「おばさんおばさん、こんなにすすがついてはまきがむだになりますよ」と教えてあげたんだと。すると、おかみさん
「ああ、ああ、わかっているよ。わざとこうしてくっつけているだよ」。
 このおかみさんが言うには、毎日、どんなに苦労してすい事をしているか、これがそのしょうこなのだと。
「それに、このすすを取ってしまうと、火のかげんがくるっちまうよ。このままの方が都合がいいんだよ」と、むしろ、自まんげであったと。

 金次郎さん、これにはほとほとあきれはてて、他の家に行ってみたんだと。ところが、ここでも同じ、どこへ行っても同じようだったと。
 そこで、金次郎さん、「一回に一本たき木をむだにしたとして、一日に三本、一年に、うーん、千本か。一回に一本ということはないから...。これは大変な数になるぞ。こうしてはいられない」と、すぐに、あっちこっちとび回ったんだと。

 まず小田原の商人に、すすを買い上げてもらうようにたのんだ。つぎに自分の住むさくらい村の一けん一けんをたずねて、たき木のむだを教え、毎日、なべやかまのすす落としをするようにすすめたと。
「ガリガリ ガリガリ」
 さて、こうなると、村のおかみさんたちは昼すぎになると、いっせいにいどばたやら川っぷちに出て、競ってなべかまの底をみがきはじめた。
「ガリガリ ガリガリ」
 そのうち面白がって、子どもたちまでガリガリとやりはじめたと。あまり熱心にみがいて、なべの底にあなをあける者まで出たということだ。
 おかげでごはんがずっと早く炊けたし、たき木は、うーんと余るようになり、町の者に売ることもできた。
 集めたすすは、すみなどの材料となるので、商人が買ってくれた。それに毎日毎日のなべかまみがきをしながらのおしゃべりは、おかみさんたちの楽しみの一つになったのだと。

 こうして金次郎さんのおかげで、村のくらしはだんだん楽になってきたそうな。昼下がりのさくらい村は、あっちからもこっちからも、
「ガリガリ ガリガリ」と、セミの声も聞こえぬほどにぎやかになったという。


「私たちのふるさと昔ばなし」((社)小田原青年会議所)より

さし絵
齋藤 久枝さん

ことば

ほうとく

社会にとって役立つことをすれば、いずれ自分に返ってくると言う考え方。漢字では報徳と書きます。

二宮尊徳(にのみやそんとく)

江戸(えど)時代に人々の生活を安定させることを目指して、600以上の村を立て直した人です。子どものころは金次郎(きんじろう)とよばれました。

あばれ川

こう水や水害が多い川

一里(いちり)

むかしのきょりのはかり方で、約3.9キロメートル

五ひょう

むかしのはかり方で、一俵(いっぴょう)は約60キログラム。五俵(ごひょう)は約300キログラム

すす

まきが完全にもえないときなどに発生する、黒くて細かいつぶ

用足し

用事をすませること

すみ

すすを固めたもので、書道などで使います。

ポイント

なべやかまの底にたまったすすをおとせばまきの節約になり、そのすすもすみの材料としてリサイクルできる。しかも村の暮らしも楽になる。ちえを働かせて「もったいない」ことをなくしたこのお話は、げん代の3Rにも通じます。このほかにもきんじろうさんが考えだしたことはたくさん。ぜひほかの話もさがしてみてください。


このページの上へ移動