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哀しみ かわものたろうすぎ

川茂の太郎杉

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このホームページの中で、いちばんノリノリな民話の語りが聞けるお話です。女の人を好きになってしまった木のせいが、人間のすがたになってあらわれます。二人はすぐに仲よくなるのですが、この木をきろうという話がもちあがります。はたして二人のうんめいは?思わず引きこまれる大岩みどりさんの語りをぜひ聞いてみて下さい。

民話の舞台
新潟県佐渡市赤泊地区
かたりべ
赤泊民話かたりべ・大岩みどりさん
収録地
新潟県佐渡市下川茂・太郎杉公園
収録日
2008年10月18日
再生時間
12分58秒

民話のふるさと

民話名
川茂の太郎杉
収録日
2008年10月18・19日
撮影地
新潟県佐渡市
再生時間
2分33秒

聞いてみよう

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大岩 みどり(おおいわ みどり)
かたりべ
大岩 みどりさん
再生時間
12分59秒

読んでみよう

印刷用データ(PDF)

方言版

新潟県 川茂の太郎杉

 むかし、赤泊村川茂(あかどまりむらかわも)の五所神社(ごしょじんじゃ)の山手の大杉山(おおすぎやま)に、太郎杉という大きな木があった。
 十数人でかかえるほどもある大きなみきは、八方にえだを広げ、うっそうたる葉をしげらせておった。森の木をつきぬけて高くそびえる太郎杉は、村のどこからもながめられた。

 そのころ、大杉山のすぐふもとの権四郎(ごんしろう)の家に、十五六の気だてのいいむすめがおった。
 むすめは毎日子守りをしておった。せなかに負われたおさな子はよく泣いた。赤子が泣くたびに、むすめはでんでんだいこを鳴らしてあやした。
 そんなむすめのすがたを、森のしげみの中から、じっと見ているわか者がおった。

 ある日、むすめは、しげみの中から自分を見ている男の気配を感じておどろいた。わか者は気はずかしそうに出て来て言った。
「おれ、太郎だっちゃ。おぼえかして悪かったが、太郎杉のせいの太郎だっちゃ。高い所からいつもお前を見ておったけも、いつの間にかお前を好きになってしもうたんだ。お前に会いとうてだちかんもんし、出て来たんだっちゃ」
わか者は、心の思いを打ち明けた。
 むすめは、最初あっけに取られたけど、男ぶりのいいりりしげなわか者だったので、あんまり悪い気はしなかった。二人はとりとめもないような話をしていても、けっこう楽しかった。
 その後も、むすめが子守りをしながら山道を歩くと、わか者はすがたをあらわした。むすめの方もそれをだんだん期待するようになり、やがて二人はひそかにおうせを楽しむ仲となった。

 ある日、村の中に高札が立った。
「大変だ。太郎杉を切れというお達しだ」
「何でぶぎょう所が、そんなおふれを出すのんや」
「越後(えちご)のとの様が、城(しろ)ぶしんに欲しいと、太郎杉を名指しで注文したんだと」
「手伝った者には、ほうびをたんとくれるんだとさ」

「太郎杉は、神様のやどる神木(しんぼく)だから、むかしから切ってならんことになっとるのんに」
「村ができたときから、ずっと村を見守ってきて、村のことなら何から何まで知っとる木なのに」
「おれは反対だ。切るのはぜったい反対だ。太郎杉はおらが村のたからなんだ」
「そうかと言うて、ぶぎょう所にたてつけば、ろう屋につながれるか、打ち首だ」
「ほんにこまったことになったもんだ」

 むすめは、夜家をぬけ出し、太郎杉の所へ行った。太郎はすでにそのことを知っておった。
「おれはもうためだ。近いうちに必ず切られる。お前と会えるのはもういく日もない」
わか者はむすめをしっかりだきしめた。
「お願い。にげて、今のうちに」
「だめだ。おれは、ウサギやムジナのようににげることができんのだ。そのかわり、切られてもぜったい動かん。そしたら役人もこまって、お前に助けを求めて来るはずだ。その時、お前はおれの上に乗って合図をしてくれ。おれはお前の言うことだけは聞く」

 いよいよ、太郎杉の切られる日がきた。
ひとばんじゅう太郎杉にだきついて泣いていたむすめは言った。
「らんぼうな切り方をしないで。太郎はいたいと血のなみだを流すから」

 みきが大きいからえだも太い。
 えだ下ろし作業が始まると、
 かーかーからすや山鳥が、
 巣をこわすなとさわぎ出す。
 巣にはかわいい子がいるんだぞ。

 みきにまさかりを入れると、赤い血が流れ出てきた。
「こりゃ、一体、どういうこった。木が血を流すとは」
「権四郎のむすめの言うたとおりだ」
血は、いくらふいてもふいても止らない。
「やっぱり神木を切ったたたりじゃねえか」
「おい、だれか、権四郎のむすめをよんで来いや」

 むすめは、太郎がきられる悲しみのあまり、熱を出してとこについておったが、知らせを聞くと、がばっと起きて走って来た。
 むすめがやさしく太郎のなみだをふくと、血はぴたりと止まった。
 やれやれ、やっと血が止まってよかった。
 こんどは、静かにゆっくり切らんか。
 そんなにゆっくり切ったんじゃ、何日かかったら終わるやら。

 根もとは切ったのに、大木はでーんとねまって、動こうとしない。
「太郎はたおれるのをいやがって、引くとそり返ってだちかん」
「向こうへたおれたら、あとが大変だぞ」
「やっぱり権四郎のむすめに助けてもらわんか」
むすめはよばれてやって来た。
「太郎や、こっちにたおれておくれ」
むすめがでんでんだいこを鳴らすと、それに合わせて村人はつなを引いた。
 ドドド・・・・バリバリ・・・・バリバリバリ・・・・ザザザ・・・・ザザ・・・・ザ・・・・ドスーン

 年輪を数えてみれば二千年
 かぶにむしろ八まいしいて
 木こりこりこり輪づくって
 飲めや歌えやまいおどれ
 めでためでたの大ふるまい

 あんまり長くちゃ運べんから、
 長のこ入れてザークザク。
 朝からばんまでザークザク。
 二日も三日もザークザク。
 うではだるいし腹もへる。
 ここらで一ぷく、たばこにせんか。

 村人みんな集まって、
 牛も馬も連れて来て、
 そら引け、どっこいしょ。
 えんやこら、どっこいしょ。
 玉あせぼろぼろ出るけれど、
 どうしたことか、びくともせん。
 やっぱり権四郎のむすめにたのまんか。

「わたしがたいこを鳴らしたら、みんなで一気に引いとくれ」
そう言って、むすめは、
「行ーけ行け太郎」
とさけんで、でんでんだいこを鳴らした。
「そーら来い太郎」
と、村人が一気に引くと、大木はちょっと動いた。
「動いたぞ! 太郎が動いたぞ」

「行ーけ行け太郎」 でんでん
「そーら来い太郎」
「行ーけ行け太郎」 でんでん
「そーら来い太郎」
太郎杉は、少しずつ坂道を登っていく。

 六月坂(ろくがつさか)を登りつめ
 戦道峠(たたかいどうとうげ)をこえたれば
 徳和(とくわ)の道は下り坂
 ころ太(た)ごろごろ転がって
 あんまりすべるとあぶないぞ
 禅達(ぜんたつ)ムジナも手をかせえ
 浦津(うらづ)の海が見えてきた。

 いく日もかかって、やっと大木は浦津のはまにせいぞろい。越後からはかこたちが大ぜい、引き船に乗ってやって来た。
 太郎を見送る村人が、後から後からやって来る。
「やませ風が出たぞ! ほをあげろ」
ほは風をはらんで、船だんは海に乗り出した。

 さらば太郎よ別れはつらい。
 つらいがお前は村じまん。
 みごとお役目はたしておくれ。
 おらちはお前の子をふやす。

 それから毎年村人は、
 山に太郎の子を植えた。
 下ばり、えだ打ち、すかし切り、
 あせ水流して木を育て、
 緑ゆたかな村にした。


協力/あかどまり民話かたり部 あかどまり演劇研究会会員・金子 勝雄(敬称略)

さし絵
齋藤 久枝さん

標準語版

新潟県 川茂の太郎杉

 むかし、赤泊村川茂(あかどまりむらかわも)の五所神社(ごしょじんじゃ)の山手の大杉山に、太郎杉(たろうすぎ)という大きな木がありました。
 十数人でかかえるほどもある大きなみきは、八方にえだを広げ、うっそうたる葉をしげらせていました。森の木をつきぬけて高くそびえる太郎杉は、村のどこからもながめられました。

 そのころ、大杉山のすぐふもとの権四郎(ごんしろう)の家に、十五六の気だてのいいむすめがいました。
 むすめは毎日子守りをしていました。せなかに負われたおさな子はよく泣きました。赤子が泣くたびに、むすめはでんでんだいこを鳴らしてあやしました。
 そんなむすめの姿を、森のしげみの中から、じっと見ているわか者がいました。

 ある日、むすめは、しげみの中から自分を見ている男の気配を感じておどろきました。わか者は気はずかしそうに出て来て言いました。
「わたしは、太郎です。おどろかせて悪かったが、太郎杉のせいの太郎です。高い所からいつもあなたを見ていたのですが、いつの間にかあなたを好きになってしまいました。あなたに会いたくてたまらなくなり、出て来たのです」
わか者は、心の思いを打ち明けました。
 むすめは、最初あっけに取られましたが、男ぶりのいいりりしげなわか者だったので、あんまり悪い気はしませんでした。二人はとりとめもないような話をしていても、けっこう楽しく思いました。
 その後も、むすめが子守りをしながら山道を歩くと、わか者はすがたをあらわしました。むすめの方もそれをだんだん期待するようになり、やがて二人はひそかにおうせを楽しむ仲となりました。

 ある日、村の中に高札が立ちました。
「大変だ。太郎杉を切れというお達しだ」
「何でぶぎょう所が、そんなおふれを出すんだい」
「越後(えちご)のとの様が、城ぶしんに欲しいと、太郎杉を名指しで注文したんだと」
「手伝った者には、ほうびをたんとくれるんだとさ」

「太郎杉は、神様のやどる神木(しんぼく)だから、むかしから切ってはいけないことになっているのに」
「村ができた時から、ずっと村を見守ってきて、村のことなら何から何まで知ってる木なのに」
「おれは反対だ。切るのは絶対反対だ。太郎杉はわれわれの村のたからなんだ」
「そうかと言って、ぶぎょう所にたてつけば、ろう屋につながれるか、打ち首だ」
「ほんにこまったことになったもんだ」

 むすめは、夜家をぬけ出し、太郎杉の所へ行きました。太郎はすでにそのことを知っていました。
「おれはもうためだ。近いうちに必ず切られる。お前と会えるのはもういく日もない」
わか者はむすめをしっかりだきしめました。
「お願い。にげて、今のうちに」
「だめだ。おれは、ウサギやムジナのようににげることができんのだ。そのかわり、切られてもぜったい動かない。そしたら役人もこまって、お前に助けを求めて来るはずだ。その時、お前はおれの上に乗って合図をしてくれ。おれはお前の言うことだけは聞く」

 いよいよ、太郎杉のきられる日がきました。
ひとばんじゅう太郎杉にだきついて泣いていたむすめは言いました。
「らんぼうな切り方をしないで。太郎はいたいと血のなみだを流すから」

 みきが大きいからえだも太い。
 えだ下ろし作業が始まると、
 かーかーからすや山鳥が、
 巣をこわすなとさわぎ出す。
 巣にはかわいい子がいるんだぞ。

 みきにまさかりを入れると、赤い血が流れ出てきました。
「こりゃ、一体、どういうこった。木が血を流すとは」
「権四郎のむすめの言ったとおりだ」
血は、いくらふいてもふいても止りません。
「やっぱり神木を切ったたたりじゃないか」
「おい、だれか、権四郎のむすめをよんで来い」

 むすめは、太郎がきられる悲しみのあまり、熱を出してとこについていたが、知らせを聞くと、がばっと起きて走って来ました。
 むすめがやさしく太郎のなみだをふくと、血はぴたりと止まりました。
 やれやれ、やっと血が止まってよかった。
 こんどは、静かにゆっくり切らんか。
 そんなにゆっくり切ったんじゃ、何日かかったら終わるやら。

 根もとは切ったのに、大木はでーんとすわって、動こうとしません。
「太郎はたおれるのをいやがって、引くとそり返ってどうにもならん」
「向こうへたおれたら、あとが大変だぞ」
「やっぱり権四郎のむすめに助けてもらわないか」
むすめはよばれてやって来ました。
「太郎や、こっちにたおれておくれ」
むすめがでんでんだいこを鳴らすと、それに合わせて村人はつなを引いた。
 ドドド・・・・バリバリ・・・・バリバリバリ・・・・ザザザ・・・・ザザ・・・・ザ・・・・ドスーン

 年輪を数えてみれば二千年
 かぶにむしろ八まいしいて
 木こりこりこり輪づくって
 飲めや歌えやまいおどれ
 めでためでたの大ふるまい

 あんまり長くちゃ運べんから、
 長のこ入れてザークザク。
 朝からばんまでザークザク。
 二日も三日もザークザク。
 うではだるいし腹もへる。
 ここらで一ぷく、たばこにせんか。

 村人みんな集まって、
 牛も馬も連れて来て、
 そら引け、どっこいしょ。
 えんやこら、どっこいしょ。
 玉あせぼろぼろ出るけれど、
 どうしたことか、びくともせん。
 やっぱり権四郎のむすめにたのまんか。

「わたしがたいこを鳴らしたら、みんなで一気に引いてください」
そう言って、むすめは、
「行ーけ行け太郎」
とさけんで、でんでんだいこを鳴らしました。
「そーら来い太郎」
と、村人が一気に引くと、大木はちょっと動きました。
「動いたぞ! 太郎が動いたぞ」

「行ーけ行け太郎」 でんでん
「そーら来い太郎」
「行ーけ行け太郎」 でんでん
「そーら来い太郎」
太郎杉は、少しずつ坂道を登っていきます。

 六月坂(ろくがつさか)を登りつめ
 戦道峠(たたかいどうとうげ)を越えたれば
 徳和(とくわ)の道は下り坂
 ころ太ごろごろ転がって
 あんまりすべるとあぶないぞ
 禅達(ぜんたつ)ムジナも手をかせえ
 浦津(うらづ)の海が見えてきた。

 いく日もかかって、やっと大木は浦津のはまに勢ぞろい。越後からは船のりたちが大ぜい、引き船に乗ってやって来ました。
 太郎を見送る村人が、後から後からやって来ます。
「やませ風が出たぞ! ほをあげろ」
ほは風をはらんで、船だんは海に乗り出しました。

 さらば太郎よ別れはつらい。
 つらいがお前は村じまん。
 みごとお役目はたしておくれ。
 おらちはお前の子をふやす。

 それから毎年村人は、
 山に太郎の子を植えた。
 下ばり、えだ打ち、すかし切り、
 あせ水流して木を育て、
 緑ゆたかな村にした。


「川茂の太郎杉」(発行 赤泊村)を参考に作成しました

さし絵
齋藤 久枝さん

ことば

うっそう

草木が青あおとさかんにしげるさま

おぼえかして

おどろかして[方言]

せい

たましい ふしぎな力を持つもの

だちかんもし

たまらないものだから[方言]

りりしげ

(→りりしい)きりりと引きしまって勇ましい

とりとめもない

さいげんない

おうせ

会う機会、特に男女がひそかに会うこと

高札(こうさつ)

とりきめなどを記し人目を引くところに高くかかげた板札

ぶぎょう所

お役人さんがいるところ

城(しろ)ぶしん

お城のけんちく工事

神木(しんぼく)

おもに神社けいだいにある木々をひとまとめにいうこと

ねまって

(→ねまる)すわって[方言]

かこ

船のり[方言]

やませ風

やまをこえてふく風

おらち

おれたち[方言]

ポイント

このお話は、木はわたしたち人間の仲間だという思いがえがかれています。特に何百年も生きているような大きな木には、昔から神様などが宿っていると考えられ、人々は大切に守ってきました。そのような木を切るばあい、私たちはどんなことを考えなければいけないか、みんなで話し合ってみましょう。

写真館民話のふるさとを写真でみてみよう

  • たろうすぎの切り株

    たろうすぎの切りかぶが残っていました。江戸時代の末期、約半年をかけて切りたおされたそうです。長径が約5.4m、短径が3.6mもあり、切りかぶに8まいのむしろをひいて、その上で13人のきこりが酒もりをしたと伝えられています。

  • 切り株をかこった小屋

    切り株は太郎杉の館(たろうすぎのやかた)という小屋の中にありました。以前は屋外でしたが、どんどんくさってしまったため、切りかぶをかこむような形で小屋をつくったそうです。まわりは太郎杉公園として整備されています。

  • 赤泊港(あかどまりこう)の遠景

    佐渡島(さどがしま)の南に位置する赤泊(あかどまり)港。えど時代から明治時代には北前船(北海道と大阪を結び、日本海や瀬戸内海を通る航路を通る船)が立ちよる、とても栄えた港だったそうです。げんざいは新潟の寺泊(てらどまり)とフェリーで結ばれ、佐渡におとずれる人のげん関になっています。

  • 佐渡の夕日

    佐渡は夕日がきれいな島。この日もきれいな夕日を見ることができました。

  • 赤泊(あかどまり)の町並み

    赤泊(あかどまり)の町なみです。りっぱで洋館のような建物もあり、栄えていたことがわかります。

  • 朝の赤泊港(あかどまりこう)

    朝焼けにそまる赤泊港(あかどまりこう)。カニやエビ漁がさかんで、特にベニズワイガニが有名です。

  • 赤泊港(あかどまりこう)に停はくしていた漁船

    漁船の集魚灯がきれいだったので、シャッターを押しました。

よもやま民話にまつわるエピソード


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