あるお金持ちのさむらいが、川の魚をまとめてとるために毒を流そうと考えつきました。人びとはみなそれは悪いことだと分かっていましたが、むりやりそれをやらされてしまいました。その後、村に一大事が起こります。 民話の語り部としてとても有名な、市原麟一郎さんの紙芝居も見ることができます。
- 民話の舞台
- 高知県高知市土佐山地区
- かたりべ
- 市原麟一郎さん
- 収録地
- 高知県高知市
- 収録日
- 2008年5月29日
- 協力
- 高知県立文学館
- 再生時間
- 10分08秒
読んでみよう
方言版

むかしむかし、土佐山村(とさやまむら)に高瀬(たかせ)たろべえというて、たいそう金持ちのさむらいがおったそうな。お金と力にものを言わせ、なんでも自分の思いどおりにしようというわがまま者だったと。
たろべえの家は山の上にあった。
その下を鏡川がながれておったが、「うしおにぶち」とよばれる"ふち"のあたりを、アユ、コイ、ウグイ、イワナ...いろんな魚が、ぎょうさん泳ぎよったそうな。
それを見たたろべえは、あることを思いついたと。
たろべえ おーい、作造(さくぞう)、作造
作造 はいはい、だんなさま、なんでございますか
たろべえ 作造よ、わしゃのう、"うしおにぶち"の魚をこっぽりとっちゃろうと思うんじゃ
作造 ええっ、うしおにぶち...
たろべえ どうした、なにをたまげちょる
作造 だんなさま、あそこには"うしおに"がおるとのことでございます
たろべえ わかっちょる、それがどうした
作造 ほんで、あこな魚はとっちゃいかん、とったらたたりがあると...
たろべえ ばかばかしい。そんなことはめいしんじゃ。このわしが、そのめいしんをたたきつぶしてやるわい
たろべえは、こうといいだしたら、だれがなんといおうと耳にかさないごうじょうもの。さっそく村人たちをよびあつめると「みなの者、よいか。カラカワ流しをやるから、そのじゅんびにとりかかれ」
カラカワ流しというのは、毒のある木の根っこをすりつぶし、それを川へながすと、魚たちは体がしびれて、白い腹を見せて川へうきあがってくる。それを根こそぎとってしまうというやり方で、ほんとうはこんな漁をしてはいけないことになっておるのだが、たろべえに反対するとどんなひどい目にあわされるかもしれん。
「わかったな。いまからすぐにカラカワをつくるんじゃ」
村人たちは、自分たちの仕事もほっぽりだしてカラカワづくりをやらされた。
「おいおい、こんなことしてえいろうか」
「ほんま、魚をこっぽりとってしもうたら、ここは魚のおらん川になってしまうわね」
「そればあじゃすまんぞ。カラカワを流して、川をけがしてしもうたら、水神さまから、どんなおとがめをうけるかもしれん」
「あぁあぁ、いやだいやだ。いっそこんな村、にげだして行きたいよ」
「しーっ、声が高い。聞こえでもしたら、おおごとじゃ」
村人たちは仕事をしながら、こんなひそひそ話を交しておったと。
さて、カラカワのじゅんびもととのい、いよいよ明日"カラカワ流し"をするという前のばんのことじゃった。
たろべえは、いつもより早目に床についた。
すると夜なか、どこからともなく「たろべえさま、たろべえさま」と、よぶ声がすると。たろべえはゆめうつつのようなありさまで声のする方へ顔を向けると、なんとしょうじにおそろしげな、うしおにのかげがうつっておったと。
「たろべえさま、カラカワ流しは、あと七日待ってつかさい。七日たったら子どもが生まれますき、どうぞ子どもが生まれるまで、待ってつかさい」
うしおには、体ににあわんあわれっぽい声でたのんできたそうな。
ところが、たろべえというたら、こうと言いだしたら何が何でもやりとおす男じゃ。
そこでうしおにが、ゆめまくらに立ってカラカワ流しをあと七日の間待ってくれと、なみだながらにたのんだことなんぞきれいさっぱりとわすれて、朝になるのを待ちかねて、あっちこっちからいっせいにカラカワを流したそうな。
いやはや、大変なことよ。
うしおにぶちの魚は、たちまち白い腹を見せてうきあがってきたかと思うと、口をパクパクさせ苦しそうにのたうちまわっておった。
たろべえは村人たちをさしずして、そんな魚をとってとってとりまくった。このあたりの魚を根こそぎとってしもうた、というわけよ。
まあ、ここまではよかったけんど、これからおおごとが起こったんじゃ。
カラカワ流しのあくる日から、毎日毎日の雨...
「おや、今日も雨か...」
「つゆでもないのに、どうしたことじゃろねえ」
「こればあふったら、雨もりしやせんか、わしゃ心配じゃ」
「雨もりぐらいですんだらええけんど...」
雨はふった、ふった、それこそ天がぬけるばあふった......
作造 だんなさま
たろべえ なんじゃ、作造。顔色をかえて、なんぞあったか
作造 あの......それがその、みょうなことが
たろべえ ふむ、みょうなことつか
作造 はい、いろりのふちの木のわくに、きのこが生えました
たろべえ はっはは、そんなばかな、はっはは、はっはっは
と、笑いとばしたたろべえだったが、この長い雨続きにはさすがに不安げだった。
そしてそのばん、床について、たろべえが、とろとろっとまどろんだとき、「たろべえ、これたろべえ......」とよぶ声がする。はっと目をあけると、なんとそこに......口から、まっかな血を流した、おそろしい顔のうしおにがおった。
うしおに おのれ、たろべえ、あれほどたのんだに、よくもカラカワを流しおったな
たろべえ す、すまぬ、ゆ、ゆるしてくれ
うしおに い、い、いや、ゆるさぬ。こうしてくれるわ
うしおにのその声がおわると同時に、ごおーっと山なりがした。
たろべえ うわーっ、た、助けてくれーっ
山つなみがおこって、たろべえの家はもちろん、川の近まで山がつえて、たくさんの家がこっぽりうもってしもうたと。
さて、みなさん、このごろ人間は平気で川をよごしたり、こわしたりしよるが、あんまり自然をいためつけよったら、この話のようにひどい目にあうからね。みんなで自然を大事に守っていこう。
むかしまっこう さるまっこう さるのつべは ぎんがりこ
協力/高知県立文学館 島田 美和
高知市立土佐山公民館 大薮 幹成(敬称略)
標準語版

むかしむかし、土佐山村(とさやまむら)に高瀬(たかせ)たろべえという、相当な金持ちのさむらいがいました。お金と力にものを言わせ、なんでも自分の思いどおりにしようというわがまま者でした。
たろべえの家は山の上にありました。
その下を鏡川がながれていましたが、「うしおにぶち」とよばれる"ふち"のあたりを、アユ、コイ、ウグイ、イワナ...いろんな魚が、たくさん泳いでいる場所でした。
それを見たたろべえは、あることを思いつきました。
たろべえ おーい、作造(さくぞう)、作造
作造 はいはい、だんなさま、なんでございますか
たろべえ 作造よ、わしゃのう、"うしおにぶち"の魚をみんなまとめて、とってしまおうと思うんじゃ
作造 ええっ、うしおにぶち...
たろべえ どうした、なにをおどろいている
作造 だんなさま、あそこには"うしおに"がいるとのことでございます
たろべえ わかっておる、それがどうした
作造 だから、あそこの魚はとっちゃいかん、とったらたたりがあると...
たろべえ ばかばかしい。そんなことはめい信じゃ。このわしが、そのめい信をたたきつぶしてやるわい
たろべえは、こうといいだしたら、だれがなんといおうと耳をかさないごうじょうもの。さっそく村人たちをよびあつめると「みなの者、よいか。カラカワ流しをやるから、そのじゅんびにとりかかれ」
カラカワ流しというのは、毒のある木の根っこをすりつぶし、それを川へながすと、魚たちは体がしびれて白い腹を見せて、川へうきあがってくる。それを根こそぎとってしまうというやり方で、ほんとうはこんな漁をしてはいけないことになっているのですが、たろべえに反対するとどんなひどい目にあわされるかもしれない。
「わかったな。いまからすぐにカラカワをつくるんじゃ」
村人たちは、自分たちの仕事もほっぽりだしてカラカワづくりをやらされました。
「おいおい、こんなことしていいのかなあ」
「ほんと、魚をすっかりとってしまったら、ここは魚がいない川になってしまうわ」
「それだけじゃすまんぞ。カラカワを流して、川をけがしてしまったら、水神さまから、どんなおとがめをうけるか分からない」
「あぁあぁ、いやだいやだ。いっそこんな村、にげだして行きたいよ」
「しーっ、声が高い。聞こえでもしたら、おおごとじゃ」
村人たちは仕事をしながら、こんなひそひそ話を交していました。
さて、カラカワのじゅんびもととのい、いよいよ明日"カラカワ流し"をするという前のばんのことでした。
たろべえは、いつもより早目にとこにつきました。
すると夜なか、どこからともなく「たろべえさま、たろべえさま」と、よぶ声がしました。たろべえはゆめうつつのようなありさまで声のする方へ顔を向けると、なんとしょうじにおそろしげな、うしおにのかげがうつっていました。
「たろべえさま、カラカワ流しは、あと七日待ってください。七日たったら子どもが生まれますので、どうぞ子どもが生まれるまで、待ってください」
うしおには、体ににあわないあわれそうな声でたのんできたのです。
ところが、たろべえといったら、こうと言いだしたら何が何でもやりとおす男なのです。
そこでうしおにが、ゆめまくらに立って、カラカワ流しをあと七日の間待ってくれと、なみだながらにたのんだことなんてきれいさっぱりとわすれて、朝になるのを待ちかねて、あっちこっちからいっせいにカラカワを流してしまいました。
いやはや、大変なことです。
うしおにぶちの魚は、たちまち白い腹を見せてうきあがってきたかと思うと、口をパクパクさせ苦しそうにのたうちまわっていました。
たろべえは村人たちをさしずして、そんな魚をとってとってとりまくりました。このあたりの魚を根こそぎとってしまった、というわけです。
まあ、ここまではよかったのですが、これからおおごとが起こったのです。
カラカワ流しのあくる日から、毎日毎日の雨...
「おや、今日も雨か...」
「つゆでもないのに、どうしたことでしょうね」
「こんなにふったら、雨もりしないか、わしゃ心配じゃ」
「雨もりぐらいですんだらいいけど...」
雨はふった、ふった、それこそ天がぬけるくらいふりました......
作造 だんなさま
たろべえ なんじゃ、作造。顔色をかえて、何かあったか
作造 あの......それがその、みょうなことが
たろべえ ふむ、みょうなことか
作造 はい、いろりのふちの木のわくに、きのこが生えました
たろべえ はっはは、そんなばかな、はっはは、はっはっは
と、笑いとばしたたろべえでしたが、この長い雨続きにはさすがに不安げでした。
そしてそのばん、床について、たろべえが、とろとろっとまどろんだとき、「たろべえ、これたろべえ......」とよぶ声がする。はっと目をあけると、なんとそこに......口からまっかな血を流した、おそろしい顔のうしおにがいたのです。
うしおに おのれ、たろべえ、あれほどたのんだのに、よくもカラカワを流してくれたな
たろべえ す、すまぬ、ゆ、ゆるしくれ
うしおに い、い、いや、ゆるさぬ。こうしてくれるわ
うしおにのその声がおわると同時に、ごおーっと山なりがした。
たろべえ うわーっ、た、助けてくれーっ
山つなみがおこって、たろべえの家はもちろん、川の近くまで山がつぶれてたくさんの家がすっかりう待ってしまいました。
さて、みなさん、このごろ人間は平気で川をよごしたり、こわしたりしていますが、あんまり自然をいためつけると、この話のようにひどい目にあうからね。みんなで自然を大事に守っていこう。
これでお話はおしまい。
高知市立土佐山公民館 大薮 幹成(敬称略)
ことば
- うしおに
あたまが「うし」で、からだが「おに」というかっこうをした生きもの。全国各地に、この「うしおに」が出てくる民話があります。
- ふち
川や湖などの水がよどんでいて深い所
- たいそう
たいへんな[方言]
- ぎょうさん
たくさん[方言]
- こっぽり
みんなまとめて[方言]
- たまげる
びっくりする[方言]
- めいしん
物事の道すじに合わない言い伝えをがんこに信じること
- ごうじょうもの
がんごで自分の考えを変えない人
- カラカワ
さんしょうの根っこをすりつぶして作ったと言われている
- えいろうか
いいのかなあ[方言]
- そればあ
それだけ[方言]
- おとがめ
悪いことをしたばちがあたること
- つかさい
下さい[方言]
- いやはや
いやもう(おどろいて発する言葉)
- こればあ
こんなに[方言]
- まどろんだ
(→まどろむ)うとうと少しの間ねむる
- 山つなみ
山の土や岩がくずれておそってくるようす
- つえて
(→つえる)つぶれる[方言]
- むかしまっこう さるまっこう さるのつべは ぎんがりこ
民話の終わりに使う言葉 「おしまい」「めでたしめでたし」などと同じ。[方言]
ポイント
自分の都合だけを考えて動物をとったりすること、ましてや、自然をよごすようなやり方をするのは、とてもいけないことです。そういうことをすると、最後にはわたしたち人間がこまることになるので、みんなで自然を大切にしましょう。
写真館民話のふるさとを写真でみてみよう
-
土佐山(とさやま)地区の中心部です。下を流れているのが鏡川で、左方向にうしおにぶちがあります。
-
土佐山から南国市へと向かう道すじにも、たくさんの棚田がありました。「今度は稲かり間近な季節に来たい」と思いました。
-
土佐山から南国市へと向かう道すじにも、たくさんの棚田がありました。「今度は稲かり間近な季節に来たい」と思いました。
-
高知市のシンボルで、国の史せきに指定されている高知城です。江戸時代初期に建てられ、一度は消失しましたが、江戸時代中期にさい建されたものが残っています。この日、高知は5月末なのに、真夏を思わせる暑さでした。
-
民話がうまれたうしおにぶち。きれいな水がものすごいいきおいで流れていました。鏡川という「平成の名水百選」に選ばれている川がつくりだした風景です。
-
江戸時代、堀川(ほりかわ)という細い川にかけられたのが前身です。しかし、1960年代に川のよごれが進んだことから、堀川はほとんど埋め立てられてしまいました。一方で歌よう曲やえい画で有名になり、全国に知られるようになりました。1998年、車道から少しはなれた場所に、歩道せん用のたいこ橋がかけられ、橋の下には人工の水路もつくられて、今にいたっています。
よもやま民話にまつわるエピソード
-
高知県『うしおにぶち』について
高知県を中心に各地で大変有名な語り部・市原麟一郎さんによると、この民話はおよそ400年前、戦国時代ごろのお話だそうです。








